「私大ガバナンス改革法」反対声明

 

2022年1月26日
愛知大学豊橋校舎学生自治会常任委員会

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 すべての愛大生のみなさん、そして教職員や愛大OB・OGのみなさんによびかけます。
 岸田政権・文部科学省は、多くの私立大学関係者の反対の声をふみにじりながら、今国会に私立大学ガバナンス改革関連法案を上程し制定することをねらっています。この法案こそは岸田政権が政府の進める教育・研究政策に私立大学を強権的に組み敷くための反動法案です。
 もはや一刻の猶予もありません。愛知大学も加盟する日本私立大学団体連合会は、政府のすすめる私立大学のガバナンス改革は「学生の視点が完全に欠落して」おり、評議員会への権限の集中は大学の健全な経営や教育発展を阻害する、と声明を発しています。私たち学生や父母の声を踏みにじる私大ガバナンス改革を許してはいけません。私立大学への国家的統制を強化するためのガバナンス改革に対してただちにキャンパスから反対の声を上げ、全国へと広げていきましょう! 教職員のみなさんもともに反対の声を上げましょう!

(2)

 政府・文科省は私立大学のガバナンス「改革」案に、①評議員会を最高監督・議決機関とすること、②評議員は学外者のみで構成し、教職員との兼任は認めないこと、③理事の選任・解任は評議員会がおこなうことをもりこんでいます。この改革を進めようとしている政府の目的は、教育・研究に直接たずさわる教職員を各大学の評議員会から完全に排除し、代わりに政府・文科省の息のかかった人間を評議員会に送り込むことを基礎にして大学の教育・研究活動を政府がコントロールしていくことにあるのです。学長・理事会を政府・文科省の“下請け執行機関”のようなものに貶めようとしているのです。
 岸田政権は国策に沿った研究・教育を私立大学においても強力に進めていくために、その障害と見なした「大学の自治」や「学問の自由」を一掃していこうとしているのです。政府はいま「研究と経営の分離」などの「先端的なガバナンスを導入する大学」にたいして補助金を拠出するための総額10兆円にものぼる新たな国家ファンドを創設しようとしていますが、これは“大学教員は文句を言わず国策に沿った研究だけやっていればよい”、と考えているからです。「強固なガバナンスなくして教学の自治なし」(ガバナンス改革会議の報告書、2021年12月3日)という文言には、“外部=国家の統制が第一、大学の自治など二の次だ!”と言わんばかりの居丈高な姿勢がむき出しではありませんか【註1】。
 政府がマスコミをつかってたれ流す「私立大学で相次ぐ不祥事の再発防止のためのガバナンス改革」なる宣伝にだまされてはいけません。学内民主主義が破壊されトップダウンで大学運営が決定される大学でこそ学生・教職員の利益に反する問題が生じるのであって、「評議会に学内委員が含まれているから」問題が起こるわけではないからです。ところが、文科相直属の私立大学ガバナンス改革会議の委員などは“私大関係者がガバナンス改革の議論に口を挟むのはおかしい”とか“教職員だけでは内部統制ができない”とか、果ては“私立大学は各種免税など「隠れた補助金」を享受している”などと、あたかも「教職員・学内者」=〈利権にしがみつく抵抗勢力〉=悪、「学外評議員」=〈改革勢力〉=善、であるかのような構図をつくりあげて、ガバナンス改革に反対する人たちを攻撃しています。まさにファシスト的な悪辣極まりないキャンペーンではありませんか。
 文科省は私大関係者の抗議を受けて「私学側の意見をくみ取るため」と称した新たなガバナンス検討会議を設置しましたが、政府の進めるガバナンス改革に抵抗する大学当局者の意見を取りこんで、なんとしても法案策定にこぎつけることをねらっているのです。いまが正念場です。各私立大学の自主的な大学運営を否定し、外部委員をテコとして国家のもとに教育・研究をコントロールしていく-そのような政府による暗黒の大学支配を許してはいけません。

【註1】ガバナンス改革会議の報告書には、「世界各国に比べ…教育・研究の劣化が懸念され、国際的競争に伍していけるか、強く心配される」「今後は統廃合も含めて大胆、かつ機動的に実行されることが求められる」と明記されている。そこには“国家の役に立たないムダな研究・教育ばかりやっている大学はさっさとつぶす!”という悪辣な意図があらわです。

 

(3)

 こんにち岸田政権が大学のガバナンス改革につきすすんでいるのは、アメリカ・バイデン政権と中国・習近平政権とが政治・軍事・経済・技術などあらゆる分野で激突するなかで、日本国家が生き残るためには大学の研究成果や研究者を根こそぎ動員していく必要性に駆られているからにほかなりません。
 岸田政権は「経済安全保障」の一環として、国策に資する研究開発をうながしその成果を国家が利用していくために、大学への介入・統制を強化することをねらっています。いま中国政府は国家の総力をあげて先端半導体・AI・5G・量子通信技術などの開発をすすめ、それを兵器開発に利用しています。このことに猛烈な危機感を募らせている日・米の両政府は、アメリカのように国費を投入して産・官・軍・学が共同で軍事技術を開発できる体制づくりに躍起になっているのです【註2】。
 同時に政府は、高度な研究内容が中国の手に渡ることを阻止するために、政府が大学・研究機関や研究内容、従事する研究者の監視・掌握を強化することもねらっています。岸田政権は「敵国」と見なした中国政府のひも付き・スパイが大学にいないかどうかと監視を強化しています。すでに日本政府がモデルにしようとしているアメリカの大学【註3】では、開設された「孔子学院」が次々と閉鎖され、中国政府の「千人計画(世界の科学者を中国の研究機関に招聘する計画)」に協力した研究者が学界から排除されるという今日版レッド・パージがはじまっているのです。
 岸田政権は侵略戦争法(いわゆる「安保法制」)や軍事研究に反対した研究者を「日本学術会議」の会員に任命することをあくまで拒んでいますが、それは「反戦的」「反政府的」とみなしたすべての学者・教員や学生を学界から一掃していくためにほかなりません。そしてその矛先は、政府の戦争政策や貧窮学生の切り捨てに反対する学生自治会や、「軍事研究に反対」「教え子を戦場に送らない」という思いで奮闘する教職員組合にこそむけられているのです。
 いま米国と中国が台湾の領有をめぐって軍事衝突しかねない“戦争前夜”というべき状況です。かつてのアジア・太平洋戦争では国家権力により科学者が731部隊の細菌兵器研究に動員されてしまいました。私たちは再び日本の学界が戦争に協力させられる歴史をくりかえすわけにはいきません。大学を“国家に忠実に奉仕する研究・教育機関”につくりかえるための政府による私立大学への国家的統制の強化に反対しましょう。

【註2】現在政府は、国内の研究機関において軍事利用できる技術開発がなされていないかどうかを常時監視し、その「実用化」=兵器開発に利用していくための調査研究機関の創設に向けて準備を進めている(読売新聞、21年4月27日付)。これは米国防総省の「国防高等研究計画局」(DARPA)がモデルとされていることからして、政府はこの日本版DARPAをテコにして軍事転用可能な技術の研究に莫大な国費を投じていこうとしているにちがいありません。

【註3】内閣府科学技術・イノベーション推進事務局参事官の渡邉某は、日本経団連の大学ガバナンス改革をテーマとした会合で講演し、「世界と伍する研究大学」のモデルとしてアメリカの大学をあげている。そこでは大学の戦略は学外のステークホルダーが参画する理事会で決定され、学長はその戦略を執行するものとされている。岸田政権の目指す日本の大学像はまさに米国式の国策をストレートに貫徹できる大学なのです。

(4)


 わが愛知大学は、「旧来の軍国主義的、侵略主義的等の諸傾向を一擲し、社会的存在の全範域に亘って民主主義を実現し…世界文化と平和に貢献し得る如きものたらんとする」日本を創造すべきことを建学の理念として発足しました。この精神を引き継ぐ私たち愛大人こそが、私立大学を反動的に再編していくためのガバナンス改革に反対する先頭に立つべきではないでしょうか。現行日本国憲法で保障されるといわれてきた「大学自治」や「学問の自由」、さらに「学生自治」をも否定する私大ガバナンス改革に反対しましょう。
 政府は私立大学とともに国立大学法人への統制を強化するための法改定も進めています。いまこそ国・公・私立の垣根をこえて、すべての大学人が団結して立ち上がるべき時です。
 岸田権は敵基地(=中国)先制攻撃のための極超音速兵器の開発や宇宙・サイバー兵器の開発に、研究機関の先端技術を総動員することをねらっています。そのための軍事研究予算や軍事費の「GDP比2%=10兆円」への引き上げを視野に入れて向こう5年間で総額30兆円もの軍事費を確保しようとしています。私たちは大学での軍事研究に反対するとともに、学生・労働者に貧窮を強いながら軍事費を大増額する岸田政権にも反対しましょう。
 岸田政権の進める大学ガバナンス改革は、教育の「役割」を「国の未来を切り拓く」ためのもの、つまり“お国のために尽くす”人材育成のためのものと明示する自民党改憲案の先取りとしての意味をもっています。私たちは〈憲法改悪を先取りした教育のネオ・ファシズム的再編反対〉の声を全国から上げましょう。
 一部マスコミなどで報じられる「改革案の修正」とか「政府と自民党との溝」なるものを楽観的にとらえて、拱手傍観しているわけにはいきません。また政府の敷いた「不祥事の根絶」という欺瞞的な土俵にのっかってヨリましな「ガバナンス改革」の代案を練り上げることが問題ではありません。政府はそのような代案を取り込むふりをして、大学を国家的統制のもとにおくという本質的な目的を貫こうとするにちがいないからです。岸田政権の大学ガバナンス改革に込めたファシズム的なねらいを暴き出し、学生・労働者・人民の「大学へのファシズム的統制強化反対」のうねりを学生自治会や労働組合を拠点にしていかに強固につくりだせるかが、このたたかいの成否を決します。
 今国会での私立大学ガバナンス改革関連法の制定をなんとしても阻止するために、キャンパスから・街頭から行動をおこし、それぞれの持ち場で・あらゆる機会をとらえて反対の声をあげましょう。わたしたち愛大自治会常任委員会は、すべての愛大人のみなさんと力を合わせてがんばります。ともに立ち上がりましょう!

■声明データ(PDF)

2022年01月28日